ミネルバ会計週報『譲渡不可だが譲渡所得』2020.10.26
税法は傍若無人か
民法の配偶者居住権は譲渡できないことになっているのに、税法は民法の規定を無視して、譲渡可能資産として扱い、譲渡所得課税規定を強引に作っている、という印象がないわけでは、ありません。そんなもつれた糸をほぐしてみたいと思います。
「譲渡できない」は譲渡禁止ではなくて
配偶者居住権については、民法に「譲渡することができない」と規定されていますが、これは譲渡を禁ずるという趣旨の規定ではありません。
この権利は、一身専属性であるが故に「譲渡」の瞬間に消滅してしまい、「譲渡」された側に配偶者居住権の主張の余地が存在しなくなる、という事実確認をしているに過ぎない規定なのです。すなわち、消えてしまう権利なので譲渡は原理的に不可能なことなのです。
権利の譲渡は不可でも権利の消滅は可
従って、権利の承継が出来るという意味での「譲渡」には該当しないので、配偶者居住権は譲渡性資産とは言えません。
ただし、譲渡は出来ないけれども、配偶者居住権を任意に消滅させることは可能と解されています。
そして、権利の任意消滅に対して対価がない場合は消滅利益を享受する者に対して贈与税課税を行うと通達は明言しています。
権利の消滅は財産価値移動になるので
配偶者居住権の消滅はその財産価値が単純にゼロになるだけでなく、その権利の目的となっている建物とその敷地の所有者側の財産価値を増加させる結果をもたらします。
そのため、任意の権利消滅に伴う財産価値増加利益には、贈与税課税や所得税課税が想定されておりました。
何故に譲渡所得なのか
配偶者居住権の有償での権利消滅に係るその有償対価が所得に該当することは明らかで、一時所得に該当する余地もあったところですが、今年の税制改正で、所得税法と措置法に、譲渡所得課税の規定が置かれました。
財務省のホームページに掲載されている今年の「税制改正の解説」では、配偶者居住権を対価を得て消滅させることは資産の譲渡と同じ効果を生むから、と譲渡課税をすることとなった考え方を示しています。