ミネルバ会計週報『供託金が課税される訳 -ライセンス料の収入計上時期-』2020.11.09

がん免疫治療でノーベル賞を受賞した教授が、製薬会社との間で特許権のライセンス料をめぐり係争し、その受け取りを拒否したところ製薬会社が供託し、供託金に課税されていたことが報道されました。

「権利確定主義」と「管理支配基準」

所得税法には、収入金額の計上時期について、主に2つの考え方があります。
①「権利確定主義」は、収入する権利が確定したときに収入金額を計上し、現実に収入がなくても収入実現の蓋然性が高いと判断されるときに課税すべきとします。現金主義は恣意的に課税される年を変更できるため、課税の公平の見地から認められません。
②「管理支配基準」は、対価を自己の所得として自由に支配し処分できるときに収入金額を計上します。現実の収入があれば権利が確定していなくても経済的利得に担税力を認め、課税すべきとします。

供託金にも課税できるとする根拠

上記の考え方をこの事案にあてはめると、対価を裁判で争っているため、権利確定主義の下では判決・和解の日まで収入金額の計上時期は到来しないといえます。
一方、製薬会社が供託したライセンス料は、還付請求すれば受け取ることができるため、少なくとも供託金額は教授の支配下にあるものととらえることにより、管理支配基準のもとで収入金額に計上することになります。課税庁が供託金に課税した理由は、ここにあるものと思われます。

供託金を受け取らなくても課税?

教授は課税庁の指摘を受け入れ、納税資金捻出のため供託金の一部を受け取りましたが、当初、裁判で不利にならないよう受け取りの意思表示をせず係争を続けていた状況下で供託金を管理支配していたといえるのか、課税庁の判断に疑問の余地も残ります。

次代の研究体制強化につながる対応を!

この係争の背景として、製薬業界の莫大な研究開発費の負担と医療の基礎研究や若手研究者の育成に必要な財政の不足が報道されています。そうであれば、双方が医療で社会貢献する事業者の立場から、長期的な研究体制の強化につながる合意を行い、所得を確定させたうえで課税の公平がはかれるようにすべきではないでしょうか。

 

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